糖尿病の薬物療法は、経口血糖投下薬 その分類と薬の種類 でご説明した「経口薬」によるものと、皮下に薬を注射する「注射薬」に大別されます。
一般的にイメージされる糖尿病の注射薬療法は、患者が自らの手で直接に注射をする「インスリン療法」でしょう(なお、インスリン以外の注射薬(GLP-1注射製剤)もあります。新たな治療薬「DPP-4阻害薬」「GLP-1受容体作動薬」とは ご参照)。
「インスリン療法」は経口薬と同様に「血糖コントロール」を目的としますが、具体的には「体内で不足するインスリンを外部から注射することにより、直接的に補充」するものです。
これまで「生涯に渡って続けなくてはならない、身体的・経済的に大きな負担を伴う治療」というイメージの強かったインスリン療法ですが、これにはいくつかの誤解があります。
インスリン療法は、1型糖尿病の患者のみならず、今日は2型糖尿病でも治療手段として用いられるようになっています。
また糖尿病が比較的重くなった後開始するイメージもありますが、実際は治療の初期段階から行われることも珍しくありません。
たとえば2型糖尿病の治療においては、比較的初期段階から一日3~5回程度のインスリン注射を行なう「強化療法」があります。 2型糖尿病であっても疲れた膵臓を休ませるべく、インスリンを外から注射で補充する考え方によるものです。
インスリン治療では、健常者が有する血中インスリンの変動パターンを、インスリンの注射投与を通じていわば「模倣する」必要があります。
ただしそのタイミングと製剤投与量は、体内にどれくらいインスリンの分泌機能が残っているかによっても変わってくるわけです。
日々の食事・運動の量や、病気・ストレスなどからくる体重の増減によっても、インスリンの必要投与量は変わってきます。
そのため患者は測定器を使って血糖を自己測定し、決められた範囲内において、自分でインスリンの投与量を調節していくことになります。
ちなみにインスリン製剤の種類は作用の表れる時間や持続時間に応じて、「超速効型」「速攻型」「中間型」「混合型」「持効型溶解」(作用発現の速い順)と分けられています。
数多くある製品はシリーズ化され、製品名が同じブランド名から始まるために区別がしにくくなっているだけでなく、過去には投与量の「単位」と「ml」の混同による誤投与の事例も発生しています。
日常的に自己注射を行なう患者サイドとしては、服薬前に薬剤の内容をよく確認する姿勢を持ちたいものです。
1型糖尿病(インスリン依存状態)においてはインスリン注射治療が必須であり、残念ながら生涯にわたって止めることはできません。
しかるに2型糖尿病の場合、インスリン注射による血糖コントロールが適正に行われ、インスリン分泌機能が回復(糖毒性の解除)したならば、専門医の判断に基づいて注射回数が減らされたり、あるいは経口薬治療に戻されるケースは少なくありません。
(もちろん逆のケースもあります。たとえば経口薬治療で膵臓が疲れて十分な血糖コントロールが得られなかったり、あるいは副作用が発現した場合などに、担当医からインスリン療法への移行を指示されることがあります。)
インスリン注射を続けることによる「依存症」は起こりませんが、副作用は存在します。
インスリン療法の最大の副作用は、注射の効果で血糖値が下がり過ぎたことによって引き起こされる「低血糖」になります。
低血糖の症状と原因 薬物療法との関係
このため、通常は治療開始時のインスリンの単位を低めに設定し、様子を見ながら徐々に増やしていくアプローチがとられます。
その他の副作用として、急激な血糖降下による糖尿病性の網膜症や神経障害の悪化リスクや、長期的な体重の増加リスクもあります。
インスリン治療用のペン型注射器は極細であり、注射時の痛みはほとんど感じないようになっています。ただし毎回同じ部位に打つと皮膚が硬化するため、少しづつ場所をずらして打つようにします。
ちなみに今日は器具の携帯性も高いので、たとえば治療中に器具を持って旅行することも可能です。
感染症の危険もあるため、使用後の針の再利用は厳禁です。またインスリン製剤は自宅の冷蔵庫などで保管しますが、間違って冷凍したものは変質してしまうため、解凍しても使えないことに注意が必要です。
最後にインスリン療法における薬価ですが、通院によるインスリン治療は自己負担額ベースで一回1万円以上かかるのが現状で、経済的な負担感はいまだに大きいものがあります。
ただ昨今はインスリン製剤の種類も増えてきており、製剤間の価格にも違いが出てきています。
現時点ではインスリン製剤のジェネリックは無いため、費用削減には担当医・薬剤師とも相談の上、より安価な薬に変えてもらうことを試みるほかなさそうです。