現在、糖尿病の薬は「高血糖の治療に使われる薬」と「糖尿病性合併症の治療に使われる薬」に分類されます。
このうち「高血糖の治療に使われる薬」は、高くなっている血糖を下げることを目的とする「経口血糖降下薬」と、インスリン製剤を患者が直接注射して補充する「インスリン療法」があります。
糖尿病患者の9割以上を占める2型糖尿病においては、食事療法・運動療法による代謝コントロールが不十分なときに経口薬(飲み薬)による治療が開始されます(ちなみに今日ではインスリン製剤や注射器具などの改良が進み、インスリン療法も2型糖尿病の治療手段として行われるようになっています)。
経口血糖降下薬の作用は、「インスリンの分泌を促す」「インスリン抵抗性を改善する」「糖の吸収を遅らせ、食後の高血糖を抑える」という、3つのタイプに分類されています(経口血糖投下薬 その分類と薬の種類 ご参照)。
糖尿病の薬で何を使うかは、医師の診断のもと患者の糖尿病の症状にあわせて決められることになりますが、基本的には血中インスリンや肥満度の測定などを行ったのちに薬の種類を決めて、少量から投与していくことになります。
ほかにも、普段の食事回数や食事量や、本人がどのくらいの間隔で通院が可能かなどの個人的な状況が、薬を選択するための判断材料となります。
その後は血糖値や、一定期間の平均血糖値をはかる指標となる「HbA1c」の改善の状況などをみながら、薬の効果を判断していきます。
一般に3ヶ月連続投与して十分な血糖コントロールが得られないときに、他の薬や治療法が考慮されることになります。
患者が糖尿病の他に持病を有することもあり、投薬による副作用の可能性も事前に慎重に検討されることは当然です。
また薬の効き方にも個人差があるため、そのまま量を増減しながら同じ薬を使い続けることもあれば、薬を追加したり、あるいは別のものに変更することもあります。
ちなみに妊娠中または妊娠の可能性が高いときは、原則として糖尿病の経口薬は使用しないことになっています。もちろん一種類の薬だけでなく、医師の指示のもと作用の異なるいくつかの治療薬が併用されることもあります。
薬を飲む側として注意しておきたいのは、薬の服用回数や服用量などが、そもそもある程度の規則的な生活を想定し、そのような状態の血糖値をベースとして決められている点です。
現在の糖尿病治療の中心は基本的に食事療法と運動療法であり、薬物療法はその次に位置づけられています。
(なお糖尿病の食事療法については、姉妹サイト「糖尿病の食事 効果的に続ける方法」、運動療法については「糖尿病と運動 実行のポイントとコツ」を、それぞれご参照ください。)
そのことは、投薬による効果として想定する血糖値の水準は、現在の食事と運動によってもたらされている血糖値をモノサシとして判断されることになる、という意味も含んでいるのです。
言い換えれば、日々食べたり食べなかったりで不規則に暴飲暴食を続けている糖尿病患者には、効果のある薬を処方しようにも、できるものではありません。
拠って立つ前提条件が不安定である以上、薬を処方した結果としての効果がうまく測れないからです。
薬物療法の前にまず、食事・運動・睡眠などにかかわる生活習慣を改めるところから、医師からきびしく申し渡されるはずです。
ことは患者本人の生命と、これからの生活の質にかかわることだからです。
とくに何種類かの薬を並行的に飲んでいる場合は、毎日のことである以上、どうしてもひとつふたつ飲む薬が欠けたり、あるいは飲み忘れたりといったことが起こり得ます。
このようなときに、勝手に飲む分を減らしたり増やしたり、あるいは次の食事のときに飲み忘れた分をまとめて飲むなど自己流でつじつまを合わせようとすることは、薬の効きそのものを悪くするのみならず、場合によっては低血糖などにつながる恐れのある、危険な行為にもなります。
(低血糖については 低血糖の症状と原因 薬物療法との関係 もご参照ください)
万一その薬が効かなかった場合は、指示通りの服用をしたうえで効かなかったのか、あるいは薬を飲んだり飲まなかったりの結果として効かなかったのかでは、医師が続く処置を決めるための前提が変わってくるからです。
糖尿病の薬は、「投薬時に決められた服用法をきちんと守って、はじめて効果が得られるもの」という自覚を、強く持つことが大切です。